東京商工リサーチの調査によれば、2016年に不適切な会計処理を開示した上場企業数は57社にのぼりました。この数は前年から5社増で、2008年の調査開始以来最多とのことです。全体の8割強を「会計処理の誤り」と「粉飾」が占めており、内容別に見ると「厚生年金拠出額の科目誤り」といった誤計上と、「棚卸資産の水増し計上」などの粉飾がそれぞれ24社あり、「会社資金の私的利用」など着服・横領は9社にのぼったそうです。
こうした不正の損害額を算定したり、知的財産権が侵害された際の損害額を計算したりできる会計技術、それが、フォレンジック会計です。そして、このような粉飾などを含む不適切会計が与える損害を定量化し、全体の損害額の程度を決定するプロフェッショナルをフォレンジック会計士といいます。今回はこのフォレンジック会計や、フォレンジック会計士の仕事について掘り下げてみたいと思います。
フォレンジック会計とは?
この「フォレンジック」とは、もともとは「法廷の」「法医学の」「科学捜査の」という意味です。刑事ドラマなどでおなじみの鑑識という意味合いもあります。フォレンジックが証拠探しや裏付けをとるような仕事であると、見当がつく方もいるのではないでしょうか。
フォレンジックが特に注目されたきっかけは、2001年に倒産した、アメリカ・エンロン社への捜査です。捜査の中で、不正会計事件における証拠を探し出す方法としてフォレンジックの技術が活用されました。
フォレンジック会計は、「訴訟会計」ともよばれており、会計、監査及び調査スキルを用い、弁護士ができない財務やデータ収集などにおいて、その力を発揮しています。 フォレンジック会計は、産業が早くから発達したイギリスやアメリカから始まりました。イギリスでは1904年に勅許公認会計士制度が、アメリカでは1887年に公認会計士制度が始まり、その歴史は1世紀以上にわたります。日本の公認会計士の多くが監査業務に携わっているのに対し、イギリス・アメリカの公認会計士の半数以上はそれ以外の事業会社・パブリックセクターに従事しています。また、特にアメリカは弁護士数が日本の40倍以上おり、訴訟が多発している特徴があるゆえ、積極的にその会計技術を利用してきた結果として、フォレンジックが会計の一分野として発達したと考えられています。
フォレンジック会計士の仕事
フォレンジック会計士は、公認フォレンジック会計士 (Certified Forensic Accountant, CFA)の資格や公認不正検査士 (Certified Fraud Examiner, CFE)などの資格を有するプロフェッショナルが、主にデータの収集、データの準備、データの分析、そして報告といった、基本的なフォレンジック分析論を用い、損害額等の算定根拠を調査、算定、分析、報告することで、依頼者の紛争解決を支援しています。日本でのフォレンジック会計士は、公認会計士の資格に上記の資格などをプラスアルファという形で保有していることが多いようです。
また不正会計などによる損害額の定量化以外にも、贈収賄禁止法・独占禁止法にかかる調査と管理体制の構築支援、アメリカ訴訟におけるeディスカバリー(電子証拠開示)への対応をはじめとするフォレンジック技術、さらに知的財産権やライセンス契約に関するサービス等といった幅広い分野を扱っています。
フォレンジック会計というと、企業などの法人が中心で、個人は対象外と思うかもしれませんが、財産分与や個人事業紛争といった民事訴訟等に必要な会計面での査定ができることから、その存在に注目が集まりつつあります。大手の会計事務所でもフォレンジック会計専門の部署があり、フォレンジックを専門に扱う会計事務所やコンサルティング・ファームも存在します。個人・法人を問わず、上記の点で不安がある方は、一度フォレンジック会計士にお問い合わせてみてはいかがでしょうか。
(記事提供/株式会社エスタイル)