日本の大手シンクタンク、野村総合研究所(NRI)が日本における2015年の純金融資産保有額の世帯数と資産規模や各種統計等から推計した結果によれば、「富裕層(世帯の純金融資産保有額が1億円以上5億円未満)」と「超富裕層(5億円以上)」の世帯数は約122万世帯にのぼり、2013年のピークを越えて増大したことがわかりました。
NRIの分析によれば、2013年から2015年にかけて富裕層・超富裕層の保有する資産が増加した要因として、平成25(2013)年度税制改正による相続税課税強化で、生前贈与が活発化したようです。
資産保全・継承方法のひとつに、プライベートバンキングというサービスがあります。今回はこのプライベートバンキングに焦点を当ててみます。
欧米のプライベートバンキング
プライベートバンキングは、200年以上の昔にスイスで発祥したといわれ、戦争・革命といった政治的な混乱や、恐慌・インフレによる実質資産価値の低下などといった経済的リスクから、欧州諸国の王族貴族をはじめとする超富裕層の資産を守ってきました。1815年より永世中立国であるスイスは、政情も通貨も安定しており、20世紀に入り2度の世界大戦を経験してもなお、多くのプライベート・バンクがスイスに集まり、今も、世界中の富裕層に利用されています。
現在でもスイスを拠点とする老舗プライベートバンクの多くは、資産を保全する側自らが安定していることが重要と考えられているため、パートナー制による企業経営を行っています。
欧州におけるプライベートバンキングの本質は、顧客のニーズや人生設計に合った理想的なポートフォリオの構築を追求し、顧客の事業や資産運用から生み出されるキャッシュフローの生成パターンとは異なる資産運用戦略を案内します。
一方、世界で最多の富裕層が住んでいるといわれる米国でも、プライベートバンキングは多く活用されていますが、その立ち位置は欧州のものとは根本的に異なっています。多くは大手金融機関(大手投資銀行、大手商業銀行等)の一部門のプライベートバンキング部門として発達し、ハイパフォーマンスな資産運用を重視する傾向にあります。
日本のプライベートバンキングでは
日本の大手金融機関のプライベートバンキング部門では、銀行・証券・信託にてファイアーウォール規制があるため、欧米のようなワンストップサービスはできませんが、富裕層を対象に、金融資産の運用・管理や取得・処分、不動産の運用・管理、資産承継、事業承継などのサービスを提供しています。
最近では、信託を活用して、保有株式を手放さずに配当金のみを非課税扱いで公益法人に寄付するといった、信託を活用し社会貢献するという仕組みも注目を集めています。信託期間中、議決権は保有者自身で行使が可能で、信託終了後、株式は保有者に返却されます。
会計士・税理士へ相談も
日本の多くのプライベートバンキングでは、純金融資産が11億円以上の富裕層をサービスの対象としています。しかし、どこのプライベートバンキングサービスが、自分にマッチしているか検討したいと思うのは当然の流れです。公益社団法人 日本証券アナリスト協会が2013年度からはじめたプライベートバンカー(PB)資格は、富裕層などを対象に、ファミリーの資産保全・事業承継・相続を支援するために、包括的な金融サービスを提案、実行支援するプロフェッショナルです。富裕層のさまざまなニーズに応えるためには、弁護士や税理士などとチームを組んで業務を遂行することも求められるため、資格保有者の中には、金融機関のアドバイザーだけでなく、公認会計士、税理士なども多く存在します。中立な意見を求めるためにも、一度、税務・会計のプロフェッショナルに相談してみてはいかがでしょうか。
(記事提供/株式会社エスタイル)